この患者さんは当院を初診される1年3ヶ月前に左舌下型ガマ腫を発症。10ヶ月前に地元の病院で切開術を受けられましたが、再発。その後いろいろご
自
分で調べられて、OK-432
治療をやられている県外の施設を探し、そこで舌下型ガマ腫に対して3回OK-432嚢胞内注入療法を受けられたとのことです。最初に切開を受けてしまったこともあっって、3回
のOK-432
治療とも治療後数日以内に破裂してしまったとのことです。それでも、3回目のOK-432
治療後は口腔底の腫れは判らなくなったとのことです。しかし、口腔底の腫れが消えたと思った2ヶ
月後に左顎下が腫れてきたとのことです。そこで、私に御相談がありました。まずMRIを撮っていただき送っていただきました。その結果、ガマ腫のメインは左顎下部
でしたが、左口腔底にも少量の液体の溜まりがあり、ガマ腫の分類としましては「舌下顎下型ガマ腫」であることが判りました。当院で治療を受けたいとのことで、非常
に遠いところから治療に来られました。
上がこの患者さんのMRIです。MRIでは真っ白な部分が液体の溜まり（ガマ腫）になります。一番右の写真では、唾液が口腔底にある舌下腺から漏れた唾液が下に流れて顎下部に溜まって来た様子が窺えます。
上がこの患者さんの経過です。翌日には左顎下部が強く腫れています。これは非常に良い反応です。治療2週間後以降は腫れは順調に縮小し、5週間後には判らなくなっています。
上はこの患者さんの口腔底部（舌下部）の経過です。もともとこの患者さんの口腔底の腫れは大きなものではありませんが、OK-432 を顎下部から注入した翌日には口腔底も赤く腫れてきています。これはMRIの所にも書きましたが、舌下のガマ腫と顎下のガマ腫が繋がっていることを示しています。その後、しばらくして口腔底の腫れは判らなくなっています。
その後の顎下部の経過です。6ヶ月後までお写真をお送りいただきましたが再発が無く、治癒といたしました。
この患者さんの要点をまとめますと以下のようになります。
1. 最初に舌下型ガマ腫を地元の病院で切開したが治らなかった。
2. 舌下型ガマ腫に対して3回のOK-432
治療を行ったが、いずれも数日以内に破裂が認められた。
3. しかし、この治療でガマ腫はいったん消失したかに見えたが、2ヶ月後に顎下部の腫れが出現した。
1に関しましては、これまで何度も書いていますとおり、ガマ腫は切れば必ず治る訳ではありません。
ガマ腫は唾液漏れですから、姑息的に液を出してやっても唾液の漏れが止まらなければ再発します。普通は人工的に開けた傷は閉じますから、閉じ
れば再発します。
2に関しましては、とりあえず切開して腫れを無くすということは、私はやってはいけないととと思っています。この傷がOK-432
治療を選択した場合の苦労のもとになります。弱い口腔粘膜に傷をつけますと、OK-432 治療に耐えられなくなってしまいます。無治療のガマ腫をできるだけ粘膜のダメージが少ない方法でOK-432
を注入するのが最もすんなりガマ腫が治ります。
3に関しましては、OK-432
の治療で舌下型ガマ腫が顎下型ガマ腫に変わったということは私は初めての経験です。私自身は100例を超えるガマ腫をOK-432
で治療して、1 回で治らない場合は治療を繰り返しますので200回を超えるガマ腫のOK-432
治療の経験がありますが、このような例は1例も経験していません。もちろん、この3回の舌下型ガマ腫のOK-432
治療は他医で行われたものですから、私には詳細はわかりません。ただ、舌下型ガマ腫を口腔内から手術したら顎下型ガマ腫になってしまうことは、たくさんガマ腫を診て来るとそれほど珍しくありません（このHP
の顎下型ガマ腫1や10や14や15や17や27や29、顎下舌下型ガマ腫3や5も
そうです）。手術部が瘢痕で硬くなって上の方（口腔底）に腫れることができなくなったり、唾液が流れる方向が微妙に変わったりすると、唾液は顎下のほうに溜まるようになります。もちろん、同じ様なことがOK-432
治療で起こった可能性はゼロではありませんが、OK-432
は瘢痕を作らないのが特徴であり、最初に受けた単純切開も影響している可能性もあるのではないか？と思っております。
